大腸憩室疾患について

大腸憩室とは、大腸壁の一部が外側に突出したものです。その大部分は後天性で加齢とともに増加します。原因としては、食物繊維摂取量の低下や、高度な便秘による腸管内圧の上昇などが考えられています。発生部位によって左側型(S状結腸)、右側型(盲腸~上行結腸)、両側型に分類されますが、日本では右側型、S状結腸に起こりやすいといわれています。
大腸憩室の多くは無症状ですが、憩室部の血管が破けて血便の原因となる憩室出血(血便の原因)や憩室に炎症が起こり腹痛の原因となる憩室炎(腹痛の原因)などがあります。近年では食生活の欧米化や高齢化により、憩室炎や憩室出血などの大腸憩室疾患が増加すると考えられています。
大腸憩室炎
大腸憩室炎とは、憩室に便が詰まったりすることで細菌感染が起こり、腹痛や発熱といった症状が出現します。問診や身体所見で大腸憩室炎を疑う場合には、血液検査(炎症反応の確認)、腹部エコー/CT検査(腸管壁肥厚の有無、穿孔・膿瘍などの有無を確認)を行います。
治療は、抗菌薬を使用した内科的治療が中心となります。炎症の程度が軽いものであれば、入院はせずに外来通院で抗菌薬を内服して治療することも可能ですが、症状が悪くならないか慎重な経過観察が必要です。大腸憩室は筋層を欠いており、腸壁が薄く穿孔(腸に孔があく)や膿瘍形成のリスクがあるため、炎症や症状が強い時は、入院のうえで絶食、点滴加療が必要です。
また、大腸憩室炎は、一度治癒しても再発する可能性があるため、注意が必要です。便秘や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)内服がリスクといわれており、再発リスクを減らすために便秘の予防やNSAIDsの乱用はなるべく控えていただきます。
大腸憩室出血
憩室出血は下部消化管出血の原因の中で最も頻度が高い疾患です。憩室出血は、腹痛を伴わない突発的な大量、頻回な血便が特徴です。出血部位の診断目的に、造影CTや内視鏡検査(大腸カメラ)を行います。出血部位が同定されたらまず内視鏡的止血を行います。しかし、大腸憩室は多発しており、出血源となった責任憩室を同定すること容易ではありません。
出血源が同定できない場合は絶食、点滴治療を継続します。大腸憩室出血の多くは自然止血しますが、出血のコントロールがつかない場合は血管造影にて動脈塞栓術や腸管部分切除などの外科的手術が必要になります。また、NSAIDs服用は、大腸憩室出血および止血後の再出血のリスクになることが知られているので、内服はなるべく控えていただきます。
虚血性大腸炎について

虚血性腸炎は、便秘などによって腸管内圧が高まり、血流が落ちて大腸が虚血となることで、炎症・潰瘍が生じる病気です。下行結腸に好発するため、まず急な左側腹部痛が起こり、その後にしぶり腹(トイレにいってもなかなか便がでない感じ)、下痢、血便(鮮紅色~暗赤色)の症状を来します。気分不良、冷汗、嘔気・嘔吐、意識消失などの症状を伴うこともあります。
虚血性大腸炎は「一過性型(症状、炎症が一過性で合併症なくよくなる)」「狭窄型(炎症がつよく、腸管の狭小化を伴う)」「壊死型(腸管が壊死する)」の3つに分類されます。なお、予後の観点の違いから、前二者を狭い意味での虚血性大腸炎とする見方もあります。
下痢や鮮血便、腹痛などの症状を起こす病気に憩室炎や感染性腸炎、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)などがあります。治療方針を正確に決定するためには、これらの病気との鑑別を行うことが重要ですが、虚血性大腸炎の場合、多くは急な症状であり問診、身体所見である程度の鑑別は可能です。
高齢者や、高血圧、糖尿病、腎臓病、動脈硬化、脳血管障害、心不全などの病気にかかっている方が発症しやすいといわれていますが、便秘や排便後に腸壁が強度に収縮することで血流障害が起こり、虚血になることもあるため、若年者で発症する場合もあります。
虚血性大腸炎の検査
大腸内視鏡検査
虚血性大腸炎は区域性、縦走傾向のある発赤、びらん、潰瘍を認めることが多く、病変部からの生検(組織検査)や培養検査は行うことが一般的ですが(感染性腸炎を除外し、組織学的に確定診断を行うため)、多くは内視鏡所見で確定診断することが可能です。また、炎症の程度から狭窄型や壊死型との鑑別を行います。
超音波検査、CT検査
炎症の範囲や壊死の有無を確認することができます。
血液検査
炎症の程度を確認でき、重症度を推測することが可能です。狭窄型では炎症所見が高値であることが多く、血液中のLDH、CKなどの筋原生酵素の上昇、アシドーシスの有無をみて壊死が起きていないか確認することも重要です。
虚血性大腸炎の治療
一過性型の虚血性大腸炎の場合は、保存的療法(絶食、点滴加療)で症状の改善が期待できます。抗生剤を投与することもあります。狭窄型や壊疽型の場合は、外科的切除を行うこともあります。